日本では少子化が年々進んできており、各業界で人材不足で悩まされています。
自衛隊も例外ではなく年々応募者が減っているとともに、各職場に人が足りない状態というのが続いているのが現状です。
陸・海・空それぞれ充足率は規定よりも10%ほど低く、常に人が足りていない状態がここ数年続いています。
また、人材不足に対する定年延長などの対策は、3曹昇任の採用枠にも影響する大きな問題ともなっています。
※充足率とは?:求人に対してどの程度の採用が見込めるかを数値で表したもの
Contents
自衛隊の人手不足による影響
- 自衛隊の10〜20代の充足率は69.5%とかなり低い
- 民間企業とは違い外国人労働力を頼れない
- 現場はいまだにマンパワーに頼りがち
自衛隊の人材不足による影響は年々深刻なものとなっており、特に若い世代(10〜20代)の充足率の割合が定数に対して約7割と全く足らない状況です。
また、民間企業とは違い気軽に外国人の起用ができないため、労働力確保が難しいのも大きな問題の一つ。
その上、自衛隊の現場では未だにマンパワーに頼った業務を行っているため、業務効率も民間に比べると大変悪いと言えます。
自衛隊の10〜20代の充足率は69.5%とかなり低い
自衛隊では毎年求人の募集を全国各地で実施しています。
しかしながら、ここ数年は特に若者の応募が少ないのが現状です。
少子高齢化の影響も少なからずあると思いますが、警察官などの他の公務員と比較して給料が少なく、責任が重いのも要因の一つ。
また「公務員=安定」と考える若者が減ってきているとも取れます。
民間企業とは違い外国人労働力を頼れない
自衛隊に限らずどの業界でも今は人材不足。
民間企業であれば外国人労働者を雇い入れて生産性を落とさないようにすることもできます。
しかし、コンビニバイトとは違い自衛隊の仕事は日本人しかできませんので、安易に外国人労働者に頼ることもできないのです。
自衛隊の現場はいまだにマンパワーに頼りがち
元自衛官であれば現場がいかに人に頼った業務を行っているか、お分かりいただけると思います。
民間企業であれば積極的にITやテクノロジーを駆使し、働き方に多様性をもたらそうとしますが、自衛隊の場合は別。
未だに印鑑で承認を得たり、会議は全員集まってオフラインで行ったりする上に、リモートワークなんて持ってのほかです。
もちろん、副業は禁止。行った場合は罰則されます。
このような現状で「人手が足りない…」と言っているのですから、本当に呆れます。
自衛隊の人手不足に対する3つの対策
- 自衛官の定年延長(約1年)
- 採用年齢基準の拡大(18〜33歳未満までOK)
- 初任給格上げ(約8000〜9,000円UP)
自衛隊は現状の人手不足に対してまず、現役自衛官の定年延長を行いました。
それぞれ約1年ずつ定年を延長したことにより、母数を大きくし生産性を出来るだけ落とさないようにしたんですね。
しかし、定年延長したことによりそれぞれの階級で割合(規定人数)が全て決まっているため、昇級がかなり難しくなりました。
現時点で3曹昇任を目指されている方は、辞める人の数が減ったため今まで以上に昇任枠は少なくなり、昇任するまでにかなり時間がかかる事が予想されます。
自衛官の定年延長(約1年)
階級 | 定年(年齢) |
3曹 | 54 |
2曹 | 54 |
1曹 | 55 |
曹長 | 55 |
准尉 | 55 |
3尉 | 55 |
2尉 | 55 |
1尉 | 55 |
3佐 | 56 |
2佐 | 56 |
1佐 | 57 |
(出典:防衛省・自衛隊)
1年程度伸びたからといって、これまでとあまり変わりないと言っても過言ではないでしょう。
実際に民間企業の場合は60歳まで定年雇用して、その後は数年ほど契約社員として再雇用する企業もあるくらいです。
自衛隊の場合は定年を迎えた後年金生活をするにもかなり時間がある上に、定年退職後の再就職となるとかなり厳しいと言えます。
採用年齢基準の拡大(18〜33歳未満までOK)
自衛隊ではこれまでの採用年齢基準の上限を引き上げ、18〜33歳未満まで応募できるようにしました。
上限を引き上げて応募の幅を広くしたことにより、若干応募者も増えたと言われてます。
しかしながら、日本人の若い世代の全体の割合自体がとても少なくなっているため、自衛隊のみならず他の公務員や業界でもこれからも若い人材の取り合いは続くでしょう。
初任給格上げ(約8000〜9,000円UP)
自衛隊候補生 | 8,600円増額(14万2,100円) |
一般曹候補生 | 9,300円増額(17万9,200円) |
令和に入ってから自衛官の初任給の格上げが国会で可決されました。
もちろん初任給の格上げの背景にあるのは、自衛隊の人材不足の解消を図るためです。
とは言え、自衛隊員はいざとなれば己の命を捧げる覚悟で働いているので、それに比べたらかなり対価は少ないと思われます。
自衛隊に人が集まらない5つの原因
- 労働に対しての対価がいまだに低い
- 自衛隊からの再就職が難しい
- 若年給付金が目減りしている
- 現場ではいじめやパワハラがいまだにある
- 海自に至っては一度航海へ出るとスマホが使えない
自衛隊に人が集まらない大きな原因となっているのは、自衛隊からの再就職がかなり難しい状況にある事が第一に挙げられます。
民間企業とは違い自衛隊で得られるスキルや知識というものは、ほとんどがその後のキャリアに役に立ちません。
一部では大型免許やフォークリフトの資格などの転職に役立ちそうな資格取得に無料で取り組む事ができますが、誰もが取れる訳ではありません。
特に”就職氷河期”と言われる現在において、自衛隊からの転職はまさに過酷と言えるでしょう。
労働に対しての対価がいまだに低い
自衛隊に入隊するとすぐに“事に臨んでは危険を顧みず”といった宣誓を行います。
いわば「国のために我が身を惜しまず働きますよ」といった内容です。
自衛官は常日頃から国防のために尽くしており、自然災害時には真っ先に支援に向かいます。
自衛隊の活動を生で見た事がある方ならお分かりいただけると思いますが、労働に対する対価が未だに釣り合ってないのが現状です。
自衛隊からの再就職が難しい
自衛隊からの再就職先としては全体的にみて
- 運輸業
- 営業職
- 警備員
などが多いです。
また、20代であれば専門学校へ入学し再就職を目指す方や、海外留学する方もいます。
今でこそ国民の自衛官に対する印象はかなり良いですが、それでも自衛隊からの転職が難しいことには変わりありません。
自衛官の転職が難しい大きな理由としては、
「元自衛官だからといっても、転職における個人の市場価値は上がっていない」
というのが挙げられます。
また、あまり自衛隊にいすぎると今度は年齢的に転職が難しくなるので、最低でも30代前半までには判断する必要性があります。
若年給付金が目減りしている
若年給付金とは自衛隊特有の制度であり、主に退職金と一緒に2回に分けて支給されます。
制度の目的としては他の公務員と比較して自衛官は定年退職が非常に早いため、そのための埋め合わせ制度と言えるでしょう。
人材不足で自衛官の定年が約1年程長くなったことにより、若年給付金の貰える額が1年間分少なくなります。
ただでさえ自衛官は定年後のお金の心配があるにも関わらず、定年が1年伸びたくらいでは生活の不安は解消されません。
現場ではいじめやパワハラがいまだにある
防衛省・自衛隊は2020年3月1日から、パワハラやいじめに対する処分基準を引き上げる。
被害者に重傷を負わせた場合は原則として免職とする厳罰化方針を河野太郎防衛相が通達。
背景には、処分件数に歯止めがかからず、イメージ悪化が自衛官の採用難につながりかねないとの懸念がある。
(出典:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020022900229&g=pol)
自衛隊では未だにいじめやパワハラといった事が行われており、自衛官の新規採用にも大きな影響を与えています。
「今のご時世にいじめやパワハラなんて…」と思う方もいるかもしれませんが、自衛隊の配属先によっては普通に行われていること。
捉え方は人によって様々ですが、若い世代にとってはいじめやパワハラが行われている事実がある以上、応募しようとは思わないでしょう。
海自に至っては一度航海へ出るとスマホが使えない
10代や20代の若い世代にとっては、スマホが使えないとストレスに感じる人も少なくありません。
海上自衛隊は他の陸自や空自と比較して特に応募者が毎年少なく、その原因となっているのが戦艦勤務でのスマホが使えない環境だと言われています。
一度航海に出ると1〜3ヶ月ほど帰れない上に、海の上では電波がないため、もちろんスマホは使えません。
「スマホが使えないから海上自衛隊はやめとくか…」となるのが、今の若い人たちです。
自衛隊広報部の人材不足に対するユニークな3つの施策
- 吉本興業とのコラボ企画【YouTube配信】
- 現場への積極的な女性の活用
- アニメやアイドルを活用しソフトなイメージで打ち出す
自衛隊にある広報部が行っている活動は多岐にわたり、現在ではYouTuberのようなコラボ動画も発信しているほど。
自衛隊という世間のイメージを少しでも変えようとする努力が見られており、東京の各駅にはアニメやアイドルを起用したポスターもたまに見かけます。
その他、自衛隊内部でも人材不足をそこしでも緩和しようと、最近では積極的に女性自衛官の採用行っています。
また、これまで男性が行ってきた業務にも、女性自衛官が少しずつ参入するようになりました。
吉本興業とのコラボ企画【YouTube配信】
今では小学生のなりたい将来の職業ラインキングトップ3にランクインするYouTuber。
自衛隊でも公式のYouTubeチャンネルが存在しており、最近では吉本興行とのコラボ動画が大変話題を呼んでいます。
比較的若い世代が視聴者として多いYouTube。
自衛隊という職業の10代への認知度アップにも繋がりそうですね。
現場への積極的な女性の活用
航空自衛隊において、初の女性パイロットとして任命された松島美沙さん。
これまで戦闘機パイロットになるのは男性だけだと定められていましたが、2015年(平成27年)11月に戦闘機パイロットへの女性の配置制限を撤廃。
撤廃の理由としては、少子高齢化に伴う戦闘機パイロットの将来的な減少に歯止めをつけるために、女性自衛官の採用を開始した訳です。
アニメやアイドルを活用しソフトなイメージで打ち出す
これまでの自衛隊のイメージを少しでも変えるために、広報部ではアニメやアイドルを活用した求人募集を行っています。
ポップな感じがして、とても良い感じに仕上がっていますね。
自衛隊は現状打破のために魅力を伝える努力が強いられる
自衛隊の広報部の方々は現状を打開するために、今後も継続して自衛隊の魅力を伝えると共に、更なる10代20代への認知度の向上を強いられるでしょう。
それほど今後の日本は若い世代の割合が少なくなり、他の業界とのパイの奪い合いが激化していく事が予想されます。
自衛隊の人材不足は国防にも大きく影響を及ぼす恐れがあるため、国家レベルで今後も大きな動きがあるかもしれません。